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2026.03.05

中堅・中小企業の法務支援

令和8年1月1日に「取適法(中小受託取引適正化法)」が施行されました

1 はじめに―「下請法」から「取適法」へ

 

 

市場経済における健全で公正な競争を守る法分野を競争法といいます。その一分野として、企業間の業務委託の場面で、中小の事業者を不当な負担から守るための法律として「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が昭和31年に制定されていましたが、その下請法の改正法が令和8年1月1日から施行されることになり、名称も「中小受託取引適正化法(取適法)」へと変更されました。

 

今回は、主な改正点を中心に取適法の内容をご紹介したいと思います。大きな変更点もありますので、他の企業から業務を受託されている自営業や中小企業の関係者の方はもちろん、他の企業への業務の委託を担当されている方も是非最後までお読みください。

 

2 法律名・用語の変更

 

制定以来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」の法律名が「中小受託取引適正化法(取適法)」に変更されました。その理由は、「下請」の用語が、受託事業者の立場が低い・従属的なものであるという誤った印象を与えかねないためです。

 

同様の理由で、下請法の「親事業者」は「委託事業者」へ、「下請事業者」は「中小受託事業者」へと、それぞれ用語が変更されました。

 

 

3 規制対象の拡充

 

 

従来は、規制の対象となる「親事業者」「下請業者」に該当するかは、もっぱら資本金を基準としていました。しかし、操作が可能である資本金のみによる基準では不十分であると考えられたことから、資本金にかかわらない従業員数による規制が加わることとなりました(取適法2条7項5号6号・9項5号6号)。「従業員」とは、「常時使用する従業員」のことであり、職種にかかわらず算入されます。

 

従業員数に関して、以下のそれぞれの区分ごとの基準に該当する場合は、資本金の額にかかわらず「委託事業者」「中小受託事業者」として取適法の規制対象となります。

 

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★物品の製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る。)

 

委託事業者                            中小受託事業者

常時使用する従業員300人超         個人又は常時使用する従業員300人以下

 

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★情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く。)

 

委託事業者                            中小受託事業者

常時使用する従業員100人超         個人又は常時使用する従業員100人以下

 

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4 対象取引の追加 特定運送委託

 

規制の対象となる取引類型に、「特定運送委託」が明示されました(取適法2条5項)。

 

「特定運送委託」とは、事業者(委託事業者)が物品を顧客に運送して納品する場合に、その運送を他の事業者(中小受託事業者)に委託することをいいます。法改正以前は規制の対象外とされていたため、その結果立場の弱い運送業者が荷役(荷積み)や荷待ちを実質無償で行うこととなっているといった問題が生じていました。このために、取適法で新たに規制の対象とされたものです。

 

ただし、顧客への物品の運送の委託のすべてが規制対象とされたわけではなく、①販売する物品の納品、②製造を受託した物品の納品、③修理を受託した物品の納品、④作成を受託したプログラム等の情報成果物を物品として納品、のための運送を委託する場合に限られます。

 

 

5 協議に応じない一方的な価格決定の禁止

 

 

いわゆる買いたたき(給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めること)は法改正以前から規制されていました。取適法はこれに加えて、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず委託事業者が応じなかったり、協議において必要な説明や情報の提供をせず、一方的に代金の額を決定したりすることも規制されることになりました(取適法5条2項4号)。

 

法改正以前は、下請事業者が親事業者に価格についての協議を無視されたり先延ばしにされる、協議もなしに価格を据え置かれる、価格を一方的に決められ必要な説明もなされない、といった事態が相次いでいると指摘されていました。このために、新たに規制されることとなったものです。

 

 

6 支払手段の規制

 

支払の遅延・先延ばしも、中小の事業者が押し付けられやすい負担です。このため、法改正以前より、支払期日は給付の受領や役務の提供の日より60日以内かつできるだけ短い期間内で定められなければならないとされていました。

 

しかし、手形・電子記録債権・ファクタリングによる支払い自体は禁止されておらず、これらの方法による支払いによって受託者が現金化までの資金繰りを負担させられるという事態が生じていました。このため、取適法では手形による支払いは禁止とし、手形以外の支払手段であって代金の支払期日までに代金相当の金銭と引き換えることが困難であるものによる支払いも禁止されることとなりました(取適法5条1項2号)。

 

 

7 発注内容の明示に電子メール等が使用可に

 

委託事業者は、発注をしたときは、中小受託事業者に対して、直ちに給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を明示しなければならないとされています(取適法4条1項)。この点につき、法改正以前は書面によることが必要であるとされていましたが、取適法では電磁的方法によってもよいことが規定されました。このため、電子メール等で説明することが可能になりました(中小受託事業者の同意がなくても可能です。)。

 

 

8 官庁の規制権限の強化

 

 

法改正以前は、下請法違反の取締りは公正取引委員会と中小企業庁が行うものとされており、対象となる取引の監督官庁は調査権限しか明記されていませんでした。また、公正取引委員会・中小企業庁に下請法違反の事実を通報したことについての報復措置の禁止は定められていましたが、監督官庁に通報した場合の報復措置の禁止は明記されていませんでした。

 

取適法では、委託事業者に対する監督官庁の指導・助言権限が明記され(取適法8条)、また報復措置の禁止となる通報の対象先にも監督官庁が明記されました(取適法5条1項7号)。この改正の影響は現時点では未知数ですが、監督官庁による各取引分野の実態に即した指導や助言が行われることが想定されます。

 

 

9 おわりに

 

 

以上、取適法の主な改正点を見てきましたが、事業者間の業務委託に関する取引については、この他にも契約書や注文書に何を記載するべきか、どのような場合に従来の条件を変更できるのかといった判断に専門的な考慮を必要とする場面が数多く存在します。

 

また、独占禁止法の「優越的地位の濫用」やフリーランス法による規制も同時に問題となりえます。

 

これらの規制に違反すると立入検査、勧告の公表、監督官庁による指導さらには罰金といった、企業活動に大きなダメージを負いかねない取締りを受ける可能性もあります。

 

委託者、受託者どちらの立場であっても、少しでもご不安な点があればお早めに弁護士にご相談ください。

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