2024.12.18
中堅・中小企業の法務支援
カルテ開示請求や患者様の個人情報開示請求を受けた医療機関の対応について
1.医療機関が保有する患者様の個人情報とは
医療機関(病院、診療所(クリニック)、薬局、介護保険法に規定する居宅サービス事業者等を念頭に置きますが、接骨院等を経営されている方も参考にしていただければと思います。)は、患者様の個人の氏名、住所や家族構成のみならず、カルテ、処方箋、検査所見記録、病歴、犯罪により被害を受けた事実等に関する情報も保有することになります。
したがって、医療機関が保有する個人情報には、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます。)において「要配慮個人情報」として特に配慮を要するものとされている個人情報が多く存在します。
そのため、患者様本人等より、医療機関が保有する患者様本人に関する情報の開示を求められた(以下便宜上「カルテ開示」といいます。)際には、個人情報流出とならないよう、慎重に対応する必要があります。
2.カルテ開示の対応にあたっての留意事項
医療機関において想定される個人情報開示請求のうちの一つであるカルテ開示を具体例として、カルテ開示の対応をする際の留意事項についてご説明します。
個人情報保護法上、個人情報は、基本的に本人の同意なしに第三者に提供してはならないと定められていますから、①患者様本人かどうか、②患者様本人でない場合に、患者様本人からの同意を得ているか等の観点より、開示請求者が開示請求し得る者かどうか丁寧に見極めなければなりません。
⑴ 患者様本人
個人情報保護法上、患者様本人からカルテ開示の依頼があった場合、例外的な場面を除いて、医療機関側は当該患者様のカルテ等を開示する必要があります。
このことは、個人情報保護法に定められていることはもちろん、厚労省の「診療情報の提供等に関する指針」や日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」(以下併せて「指針」といいます。)にも掲げられています。
上記例外的な場面として「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」において挙げられているのは、例えば、病状や予後、治療経過等について患者様に対して十分な説明をしたとしても、患者様本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合ですので、ごく限られた場面になります。
また、患者様等の自由な請求を阻害しないために、開示等の請求等のための書面に開示を求める理由を記載する欄を設けたり、開示等の請求等の理由を尋ねたりすることは不適切とされています。
もっとも、請求者が患者様本人かどうか確かめる必要がありますので、例えば、顔写真付きの身分証の提示を受けるなどにより本人確認をすると良いでしょう。
⑵ 法定代理人や患者様本人から委任を受けた代理人
個人情報保護法においては、法定代理人や患者様本人が委任した代理人が開示等の請求をすることができるとされています(なお、独立行政法人が設置する医療機関の場合には、個人情報保護法とはまた別の、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律に則るため、請求し得る者の代理人が「未成年者又は成年被後見人の法定代理人」に限定されていることにはご留意ください。)。
もっとも、⑴同様に、法定代理人であることや患者様本人から委任を受けていることの確認は必要です。
確認のための資料としては、本人確認書類や戸籍謄本等、代理関係を示す委任状が考えられます。代理人の場合には、委任状と併せて本人の同意書も確認できるとより良いでしょう。また、指針によれば、満15歳以上の未成年者については疾病の内容によっては本人のみの請求を認めることができるとされています。医療機関内で、満15歳以上の未成年者の患者様の法定代理人等からのカルテ開示に対してどのような対応をするかあらかじめ定めておくのが望ましいです。
⑶ 親族
単に親族であるという理由だけでは、患者様本人の同意なしに患者様のカルテ開示をして良いということにはなりません。基本的には、原則に則り、委任状や同意書の提出を求め、患者様本人の同意があるのかを確認する必要があります。
一方で、指針において、患者様本人の判断能力に疑義がある場合には、現実に患者様の世話をしている親族が本人に代わって請求し得るとされています。この場合には、その事実関係を確認できる書類を基に、請求し得る者であるかどうか確認すると良いでしょう。
3.カルテ開示の手数料について
カルテ開示の際に、個人情報保護法上、医療機関は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内で定めた手数料をもらうことができるとされています。
カルテ開示請求者の請求のハードルにならないことと、医療機関側の負担や実費を念頭に置き、手数料を定めると良いでしょう。
4.その他の対応について
上記は、カルテ開示を主眼においた留意事項になります。しかしながら、電話口や窓口等で法定代理人や弁護士を名乗っていたとしても、本当にそのような立場にある者かは分かりません。
したがって、電話での照会や、医療機関の受付窓口に来院しての照会に対しても、カルテ開示の際と同様に相手方にその立場にあることを証明する資料や患者様本人の同意書の提出を求めるなどの対応が必要となります。
5.裁判所が介入する手続について
また、カルテ開示の一つとして裁判所が介入する「証拠保全」の手続があります。患者様側が裁判所に証拠保全の申立てを行い、裁判所がその必要性があると判断した場合に実施されます。この手続は、カルテの改ざん等の時間的余裕を与えないために、医療機関には実施の直前に、証拠保全を実施する旨が告げられます。
本記事での説明はここまでとしますが、「証拠保全」という手続があることは、お知りおきください。
6.最後に
ちなみに、患者様本人や弁護士が医療機関に対し、カルテ開示をするのは、何も、医療機関の医療ミスを訴えたい場合に限りません。患者様が交通事故等の被害者になっている場合や認知症でありその判断能力に疑義がある場合等多岐にわたります。
医療機関のみなさまにおかれましては、一度、個人情報の取扱いの運用のマニュアル化やカルテ開示請求の際の書式等の見直しをされてはいかがでしょうか。