2023.08.04
廃棄物処理
廃棄物に関する投資話
1 よくある話(具体例)
廃棄物処理事業が軌道に乗ってくると、どこからともなく投資話が舞い込んでくることがあります。
「焼却施設を計画していた会社の社長が病気で倒れてしまった。地元とは良好な関係を築いていたから反対運動はないようだし、役所も書類さえ出してくれれば許可の手続きを進めるという話である。この会社をまるごと買って、焼却施設の開発を引き継いでもらえないか。今風に言うM&Aである。ちょうど計画地の取得が80%まで進んだところであり、あと20%分の代金決済が今月末に迫っている。引き継ぐならまずはその20%のお金を出して欲しい。いずれ許可が出る話なので悪くないと思う。」
いかがでしょうか。
一見すると願ってもないチャンスのようにも思えます。
ですが、この話にはいくつか不自然な点があります。
⑴ その計画に具体性があるか?
まず、「焼却施設の計画」がどの程度まで具体的なものであったのかという点です。
焼却施設を検討しているならば、どのような焼却炉で、どのような廃棄物を、どのくらいの商圏から集めるのかといった施設の基本計画が決まっているはずです。実際にプラントメーカーに相談をかけ、カタログを取り寄せたり、見積りを取得したりしているかもしれません。場合によっては、仕様書を提出し、オーダーメイドの提案を受けている可能性もあります。
こういった情報を引き出さないままに、漫然と計画が形になっていると信じるべきではありません。
⑵ 他に計画を進めるべき人はいないのか?
次に、「社長が病気で倒れた」としても、後継者がそれを引き継がないのはなぜかという点です。
そもそも後継者がいないという場合は別として、焼却施設は設置許可の取得が難しいとされる施設です。それにもかかわらず許可の取得に踏み出したということは、社長としても並々ならぬ決意があったはずです。その社長が開発半ばで倒れたとあれば、悲願を達成するために後継者がこれを引き継ぐのは自然です。
そのため、なぜ後継者が計画を引き継がないのか、詳しい経緯を聞き出す必要があります。
⑶ 本当に地元理解を得られているのか?
また、「地元とは良好な関係を築いていた」とありますが、ここは慎重に質問を重ねるべき点です。
焼却施設の設置に限らず、例えば廃棄物処理法に基づく施設の設置許可が必要な産廃施設(いわゆる『15条施設』など)の設置については、許可権者である自治体によって多少の違いがあるものの、直ちに法申請を受け付けるという運用をしておらず、まずは条例や行政指導による事前手続きを求められることがほとんどです。
この事前手続きは、自治体によって個性がありますが、基本的には地元住民の計画理解を趣旨として行われます。また、ここでいう計画理解の対象となる地元住民は、施設が実稼働した場合に生活環境上の影響が及びうる範囲の住民がこれにあたるものと考えられ、自治体によっては、その範囲を「敷地境界から◯メートル以内」というように具体的に区切っている場合や、事前手続きの中で専門委員の意見を聞いたうえで定めるとしている場合などがあります。
話に出てきた「地元」が、このような事前手続きを念頭に置いた「地元」ならば理解はできます。
しかし、単に隣近所の「地元」程度の意味かもしれません。
あるいは、昔から懇意にしている一部の人たちを指して「地元」と呼んでいるだけかもしれません。
この部分を聞かずに地元調整が行われていると判断するのは早計です。
2 実体の乏しい投資話
残念ながら、このような話のほとんどは実体の乏しい投資話だったということが多い印象があります。
ごく稀に、うまく施設の開発を引き継いで、許可の取得に至るケースもありますが、ほとんどのケースはうまくいかずに頓挫しています。
では、なぜこのような投資話が持ち上がるのでしょうか。
最も考えられる原因は、「開発の焦付き(こげつき)」です。
資金がショートした、地元住民の一部から強烈な反対を受けている、土地の取得に難航している、開発着手後になって土地に規制がかかっていることが分かった等の理由で、進めていた案件を手放そうとしていることが考えられます。
この手の話はいわゆる産廃ブローカーからの紹介であることが多いですが、不動産業者や廃棄物処理業者から転がり込むことがあります。
廃棄物の施設開発は、廃棄物に関する知識のみならず、建築に関する知見、自治体との協議に対応できる法的知識、地元との関係を構築できる企業としての誠実さや柔軟性、その他協力体制にある外部業者との折衝力や交渉力など、極めて高度な専門的スキルの集合があって初めてなしうるものです。
そのため、開発の難しさを知っている人であればあるほど、「許可が出る」と簡単に口にすることができないはずです。
3 手を引きたい場合
このような投資話には、そもそも乗らないのが一番です。
しかし、万が一このような案件を引き継いでしまった場合、事業者としてどうすればいいでしょうか。
⑴ 契約の解除を模索する
この手の投資話のスキームは様々な種類が考えられます。
土地を買うケース、事前手続き中の会社に出資して株式を一部取得するケース、事前手続きをしている会社ごと買うケースなど、挙げれば切りがありません。
どのようなスキームであるにせよ、そこには何かしらの契約が存在します。
また、会社ごと買ったケース(М&A)では、元の会社の契約関係をそのまま引き継ぐ場合があり、その場合はコンサル業者やゼネコンなどとの契約関係が残っていることも考えられます。
まずはこのような契約関係を整理した上で、解除する方法がないか模索してみましょう。
解除方法を模索する場合、まずは契約書を確認して、どういった条件を満たせば解除できるのか確認する必要があります。
例えば、「事業計画を見直して開発を取りやめたとき」に解除できるとされているならば、その旨を記載した書面を相手に送付して、契約の解除を行うことになります(解除権の行使)。
そういった条項が無い、あるいは、そもそも契約書がないという場合であっても、何かしらの理由を述べて、これを限りに契約を解除したいという意思を契約相手に伝える必要があります。
契約相手がこれ応じた場合には、合意による解除が成立して契約関係がなくなります(合意解除)。
⑵ 返金の可能性はあるか?
他方で、このような投資話にある意味で“騙された”ことを理由にして、既に支払ってしまったお金を取り戻すことはできないのでしょうか。
これについては、一般的には「難しい」と思われます。
① 詐欺(民法96条)や不法行為(民法709条等)の成否
極論、廃棄物の処理施設は、立地条件さえ整っていれば、膨大な時間とお金を費やすことで許可の取得に至ることが可能です。
そうである以上、初めから開発自体が不可能であるケースは稀です。
そうすると、『初めから騙すつもりがあった』という事実を立証することが難しく、詐欺や不法行為の成立が認められにくいと考えられます。
② 契約自体の性質から来る難しさ
特に継続的な契約が残存している場合に、例えばコンサル業者などに対して支払ってしまったお金を取り戻す方法はないでしょうか。
廃棄物処理施設の設置許可は、許可権者である自治体から出されます。
そうすると、許可を出すことについて、最終の決定権は自治体にあるということになります。
このような性質をもつ許可の取得の可否を、許可権者(自治体)以外の第三者が保障することはできません。
そのため、コンサル業者などとの契約の形態としては、『請負』ではなく『業務委託(準委任)』が選ばれるのが自然です。
請負契約であれば、仕事が完成するまではお金も払われないという発想が根底にあります。他方、業務委託は、その時々の業務の遂行自体にお金が発生するのが基本的な発想です。
そうなると、一旦支払ったお金はそこまでの業務に対する報酬ということになるのが自然であり、後になって返して欲しいといってもなかなか難しいということになります。
③ そうは言ってもどうにもならないのか?
以上は一般論ですが、全く返金の可能性がないかと言われれば、こればかりは具体的事情をみての判断になると言わざるを得ません。
例えば、土地を取得する際に、土地利用に関する法的な規制が一切ないとの説明を受けたにもかかわらず、自治体に確認したところ法的な規制があることが明らかになり、これが障害となって施設開発が出来なくなってしまった場合には、その点を突いて契約の解除を求めることができるかもしれません。
また、コンサル業者等との契約についても、業務委託と銘打ってはいるものの、その実は成果報酬を定めた請負の性格が強いものも存在するため、契約の解釈次第では支払い済みのお金のいくらかを返金してもらうこともできるかもしれません。
4 まとめ
廃棄物関係の投資話は、金額が大きく、法律も絡んだ複雑なものが多いため、施設開発に相当の知見のある者のアドバイスが無い限り、正当なものかどうかを判断することが難しいと思われます。
今回の記事のような投資話の紹介があった場合は、一度冷静になって、然るべき知見を持った専門家に相談の上、話を受けるかどうかを判断するのが良いかと思います。