2024.09.12
中堅・中小企業の法務支援
内部通報制度のススメ
1 内部通報制度を構築することの企業側のメリット
経営者の皆さま、「内部通報」や「公益通報」という言葉を聞いてどのような印象を持たれますか。
企業の不祥事を密告する、企業に敵対する行為として、後ろ向きの印象を持たれる経営者も少なくないのではないかと思います。
しかしながら、内部通報制度には、むしろ企業の致命的なリスクを排除し、企業価値を高める点において、企業にとって大きなメリットのある制度という側面があります。
つまり、どのような組織においても、不正や過誤が発生するリスクは存在しますが、実際に不正や過誤が発生した場合に、必ず経営者にまでその情報が届くとは限りません。そして、企業内部での不正や過誤は、放置されると風船が膨らむように次第に大きくなってゆきます。不正や過誤の風船が最終的に破裂することにより、企業に致命的な傷を負わせる結果となりうることは、昨今のリコール隠し、食品の表示偽装、ビッグモーターの不祥事などの問題で明らかではないでしょうか。
内部通報制度は、不正や過誤が大きな問題になる前に、現場の従業員等から早期にその情報を入手し、自ら再発防止の対応をするという自浄作用を企業に持たせる制度であり、この点において、経営者側に大きなメリットがある制度と言えるのです。
2 公益通報者保護法について
前提として、「内部通報」「外部通報」「公益通報」という言葉を整理すると、以下のようになります。
「内部通報」・・・従業員らが勤務先に対して行う通報。ただし、勤務先が委託する法律事務所、専門機関等の外部窓口に対する通報も含みます。
「外部通報」・・・勤務先(及びその窓口)以外の第三者、監督行政機関や報道機関への通報。「内部告発」とも言います。
「公益通報」・・・正確な定義は公益通報者保護法第2条1項に記載されていますが、上記の「内部通報」と「外部通報」の双方を含みます。
公益通報者保護法は、上記のとおり「内部通報」にも「外部通報」にも適用があり、そのうち「公益通報」に該当する通報をした従業員に対して勤務先が解雇等の不利益処分をすることを禁止することなどにより通報者を保護する法律です。
同法は2004年に制定されましたが、公益通報の利用が必ずしも十分でなかったため、2020年に法改正され、2022年から改正法が施行されています。
この2022年施行の改正法では、通報者や通報対象事実という保護要件を拡大していますが、さらに、事業者に対して、内部通報窓口の設置など公益通報に適切に対応するために必要な体制整備の義務が課されることになりました(ただし、従業員が300名以下の事業者は努力義務)。
なお、改正法施行後に消費者庁が企業に対して実施した実態調査(2023年12月18日~2024年1月26日実施)では、以下の調査結果が報告されています。
・内部通報制度の導入状況
→従業員数300人超の事業者:92%が導入していると回答
従業員数300人以下の事業者:47%が導入していると回答
・内部通報制度を導入している事業者の「不正発見の端緒」は、「(窓口や管理職等への)内部通報」が最多で77%、「内部監査」や「上司による業務チェック」を上回っている旨の回答
3 大樹法律事務所が内部通報制度の構築でお手伝いできること
内部通報制度は、企業が社内に通報窓口を設けることにより構築することも可能です。
もっとも、通報窓口の設置方法や運用に不安がある場合、より充実した制度を構築されたい場合などには、法律事務所等の外部機関に委託して外部窓口を設置することも珍しくありません。
当事務所でも複数の企業からの委託を受けて、内部通報制度の外部窓口を設置しています。
設置の事前準備としては、まずは企業と協議を重ね、通報窓口の媒体(メール、電話、郵送)、通報を受け付けた後の対応方法などをルール化して体制を整えます。その上で通報窓口の存在を従業員へ周知することになります。
実際に運用が始まると、法律事務所は設置された通報窓口を継続的に確認し、通報を受け付けた場合には、通報者から通報内容を確認します。その上で、必要に応じて、事実関係の調査、是正措置および再発防止策に関する意見書の作成をすることもあります。
様々な通報がありますが、実際に通報により不正の事実が発覚し、企業内部で大事にはならないうちに、是正措置が執られた事案もあります。
このように、当事務所では、内部通報窓口を社内に設置したい場合にその制度設計、さらには、法律事務所による外部窓口の設置について、ご相談を承ることができます。関心のある経営者の皆さま、是非一度、ご相談ください。