2024.07.22
離婚・相続・遺言
相続のしかた 限定承認とは
相続の方法として、単純承認、放棄そして限定承認の3つがあります。テレビや雑誌、インターネット等でお聞きになったことがあるかもしれません。
単純承認は、プラス財産もマイナス財産も、どちらも無限に引き継ぎます(民法920条)。逆に、放棄すると、プラス財産もマイナス財産も一切引き継ぎません(民法939条)。
限定承認は、プラス財産の範囲内でマイナス財産を支払えば良い、という相続のしかたになります(民法922条)。そうすると、マイナス財産よりもプラス財産の方が大きければ差引きプラス、マイナス財産の方が大きければ引き継ぐ財産がゼロになるだけなので、相続する人にとって損のない合理的な制度のように思えます。
では実際に限定承認がどの程度利用されているのか、司法統計によると、ここ数年の限定承認は年間700件前後となっています。これに対して、相続放棄は年間25万件を超えています。
件数からすると、限定承認はほとんど活用されていない制度といえます。
なぜ限定承認が使われていないのかというと、いくつかの難点があるからです。
ひとつ目の難点は、限定承認の入口です。限定承認は、相続人全員でしなければいけません(民法923条)。単純承認をしたい人と限定承認をしたい人に分かれている場合は、限定承認することが出来ません(相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人に分かれている場合は、限定承認することが可能です)。また、ほかの相続人がどこにいるのかわからなかったり、連絡がとれないような場合も、全員で限定承認をするためのハードルになります。
次の難点は、手続が複雑なことです。限定承認をしますと、「誰々の相続について限定承認したので、いついつまでに債権者は私に請求してください」という公告を官報に掲載するとともに、わかっている債権者に対しては個別に連絡をする必要があります(民法927条)。このようにして「どのくらいマイナス財産があるのか」ということを調べます。他方で、プラス財産は売却してお金に換えて、マイナス財産の支払いにあてることになりますが、競売で売却しなければいけません(民法932条)。
さらに、税金の知識も必要です。限定承認をしますと、不動産や株式など価格が変動して含み益があるものについてはみなし譲渡が発生し、所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。この税金を含めて、マイナス財産をプラス財産で支払う、ということになります。
これらの手続について、限定承認をした人が自分で進めていく必要があります。すべて自分だけで限定承認の手続を進めることは簡単ではありません。
限定承認はこれだけ面倒な手続ですので、なかなか気軽に使えるものではなく、それが件数の少なさに表れています。それでも限定承認を使うメリットがある場合として、大きく次の2つの場合が考えられます。
1.亡くなった人にある程度プラス財産があるものの、マイナス財産がどのくらいあるのかはっきりしない。放棄してしまうのはためらわれるが、単純承認をしてどのくらい借金が出てくるのか不安な場合。
2.亡くなった人のマイナス財産が多く単純承認は出来ないが、プラス財産のなかにどうしても引き継ぎたい財産がある場合。
生活上どうしても手放せない財産や、事業を続けていくために必須の財産(不動産、設備、株式など)が亡くなった人の名義になっていて、多少お金をかけても残さなければいけない場合です。先ほど、プラスの財産は競売でお金に換えなければいけない、とご説明しました。どうしても引き継ぎたい財産は、競売でお金に換えるかわりに、「鑑定人」を選んで、鑑定人の評価した金額を払うことで、その財産を個別に引き継ぐことが出来ます(民法932条但書)。
この場合、鑑定人に払う報酬や、鑑定人の評価した金額を支払う必要はありますが、それらのコストをかけてでも引き継がなければならない財産がある、でも単純承認をしてマイナス財産全部を引き継ぐことは出来ない、という場合には、限定承認を有効に活用できます。
このように、限定承認は使いにくい制度ではありますが、限定承認でしか実現できないこと、限定承認を有効に使える場面もあります。
時間や費用といったコストをかけてでも限定承認をする必要があるケースなのか、限定承認をするにあたって支障はないか、限定承認をしたあとの手続はどうするのかなど、限定承認を検討される場合は、早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
以上