2024.06.13
離婚・相続・遺言
特別縁故者に対する相続財産の分与について
亡くなった方(被相続人)が遺言を残しておらず、また、配偶者や子といった相続人もいないような場合、その相続財産は、債権者等に対する弁済手続を経た後、後述の手続が採られなければ、最終的には国庫に帰属することになります。
もっとも、被相続人の療養看護に努めた内縁の妻や事実上の養子等、被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)が、たまたま遺言等がされていなかったために相続財産から何らの分与をも受けえないという場合にそなえて、民法では、当該者の申立てにより、家庭裁判所が、財産分与の当否を審理する制度が設けられています(民法第958条の2)。
この「特別縁故者」について、条文では、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」と規定されています。このうち、「被相続人と生計を同じくしてた者」としては、例えば、内縁の配偶者や事実上の養子、子の配偶者等、また、「被相続人の療養看護に努めた者」としては、例えば、(生計を同じくしない)親戚、(通常の職域を超え、対価以上に献身的な世話をした)看護師や被用者等が想定されています。
また、特別縁故者と認定し、財産分与を認めた近時の裁判例の傾向について、「被相続人との親等や血縁関係の遠近よりも日常生活における具体的な関係性や被相続人の意思の推認が判断基準として重視されている」という指摘も存するところです(潮見佳男編『新注釈民法⒆』(有斐閣・第2版・2023年)809頁)。
特別縁故者の立場で、家庭裁判所に財産分与の申立てを行うに際しては、被相続人の生前の意思という観点にも留意しながら、被相続人との物理的・精神的な結びつきの強さを基礎付ける事情を幅広く、かつ、可能な限り具体的に摘示する姿勢が肝要ではないかと考えられます。
その上で、こうした特別縁故者に対する財産分与制度に関しては、次の点にもご留意ください。
第1に、本制度の適用場面は、相続財産が国庫に帰属する前の最終局面に限定されています。すなわち、厳密には、本申立てを行う前提として、相続財産清算人の選任、相続人の捜索、さらに、被相続人に債権者や受遺者が存する場合には弁済の手続が必要となります。本申立ての有効期間を含め、上記一連の手続では、それぞれ期限が厳格に設定されていますので、全体の流れを意識し、注意深く手続を進めていくことが重要ではないかと思います。
第2に、条文上、「家庭裁判所は」「相当と認めるときは」「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる」と規定されているとおり、本制度では、誰に対し、何を、どれだけ分与するか、という点について、専ら家庭裁判所の裁量(判断)に委ねられています。換言すれば、家庭裁判所が、審理の結果、相続財産を分与しないことが相当であると判断したケースでは、全く分与を認めないことも許容されています。したがって、この意味でも、相続財産の種類や数額といった財産関係の事情のみならず、被相続人に対する献身的なサポートや被相続人との親密性を基礎付ける個別的な事情について主張立証を尽くすことが重要なポイントになるのではないかと考えております。
今回取り上げた特別縁故者に対する相続財産の分与については、「被相続人の合理的意思を推測探求し、いわば遺贈ないし死因贈与制度を補完する趣旨も含まれている」という指摘も存するところです(最高裁判所平成元年11月24日判決参照)。
「法定相続人ではないし、被相続人の遺言等もない。けれども、被相続人との関係性を懐古・想起したとき、その相続財産を分与されることが相当ではないか。」と思われるような場合には、一度、弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。