2025.05.02
マンション管理
原状回復ってなに?退去時のトラブルを防ぐために知っておきたいこと
賃貸借契約が終わって部屋を退去するとき、原状回復が行われます。大家さんとしては次の入居者をスムーズに迎えるために、できるだけ部屋をきれいな状態に戻したい。そしてそのための費用は、できれば借主に負担してほしい…と考えがちです。ですが、この「原状回復」をめぐって、貸主と借主の間でトラブルになるケースも少なくありません。
<原状回復ってどういうこと?>
原状回復義務という考え方は以前からありましたが、2020年4月施行の民法改正で、正式に民法に規定されることになりました。民法の原状回復の考え方は、「借りたものの損傷を直す」ことです。ただし、すべてを元通りにする必要があるわけではありません。
たとえば…
・普通に生活していたら自然にできる汚れや傷(=通常損耗)
・時間の経過によって古くなったり劣化した部分(=経年劣化)
こうしたものについては、借主が直す必要はないと、民法に明記されています(民法第621条)。
<「通常損耗」ってたとえば?>
経年劣化はわかりやすいと思います。年月が経てば、どんな部屋も少しずつ古くなっていきます。
では通常損耗とはなんでしょう。これは、普通に使っているだけで起きる汚れや傷のことを指します。
たとえば…
・テレビや冷蔵庫の裏側の壁紙が黒ずむ
・フローリングに擦り傷ができる
・ドアノブなど、よく触る部分が変色する
こうしたものは、人が住んでいれば自然に起きるもので、完全には防げません。そのため、「借主の責任ではない」として、原状回復の対象から外しているのです。
<契約書に「全部借主負担」って書いておけばOK?>
そう思われるかもしれません。
「法律に特に決まりがないときは、契約で自由に決められるんだから、原状回復費用も借主負担と書いておけば大丈夫じゃないの?」と。
たしかに、事業用物件(店舗やオフィスなど)の場合は、そのような取り決めが有効になることもあります。
しかし、住居用のアパートやマンションを個人が借りる場合は話が違ってきます。
消費者契約法が関わってくる場合があるのです。
消費者契約法には、民法などのルールに比べて、消費者に一方的に不利な契約内容を無効にする規定があります(消費者契約法10条)。
通常損耗や経年劣化も借主負担で原状回復する、という契約は、民法のルールに比べて借主に不利な内容です。そのため、民法に原状回復のルールが導入されたことが影響し、契約書に書いてあっても、消費者契約法によって無効と判断される可能性が高くなったのです。
また、退去時の原状回復やルームクリーニングにあてるという名目で、どのような場合であっても返金されない性質の定額補修分担金といったお金を支払うという契約もありますが、これも無効と判断されるリスクがあります。
<無効とされるとどうなる?>
大家さんとしては、入居前の状態に戻して、次の入居者を募集しやすい状態にしたい、そのためのコストはできるだけ下げたい、と考えます。
しかし、消費者契約法によって無効と判断されるリスクがあります。
そうなると…
・トラブル対応のコストや弁護士費用が発生する
・想定よりも負担が大きくなり、資金計画が崩れてしまう
といった問題が起きかねません。
<トラブルを防ぐためにできること>
原状回復をめぐるトラブルを避け、堅実に物件を運営していくためには、契約時点でしっかりと準備しておくことが大切です。
たとえば…
・ 原状回復の範囲を具体的に想定しておく
・契約書の内容が法律に合っているか確認する
・特約が有効かどうか、弁護士に相談する
これらを行うことで、契約内容が無効とされにくく、借主との信頼関係も築きやすくなります。
<まとめ>
原状回復では、「通常損耗」や「経年劣化」は借主の負担にはなりません。
契約に書いてあっても、消費者契約法等により無効になることがあります。
トラブルを防ぐには、契約時の準備と専門家のアドバイスが重要です。
安心して賃貸経営を続けていくためにも、原状回復の考え方や法律の基本ルールをしっかり押さえておきましょう。