2025.03.19
廃棄物処理
廃棄物処理業者の皆様へ~納得できない行政指導に直面した際の適切な対応法~
廃棄物処理業者の皆様は、納得できない「行政指導」に悩んだ経験があるかもしれません。
「行政指導」という単語からは「従わなければならない」という雰囲気を感じるかもしれませんが、実は行政指導には法的な強制力はなく、必ずしも従う必要はないということをご存知でしょうか。
今回は、廃棄物処理業者が納得できない行政指導に直面した際の適切な対応方法についてご紹介します。
行政指導とは?
行政指導とは、行政手続法第2条第6号などにその定義がありますが、簡単に言うならば行政からの「お願い」です。「お願い」ですので法的強制力がなく、従わなくても法律上の不利益が生じることはありません。
しかし、実際には行政指導があたかも強制力を持つかのごとく扱われているケースがあり、業者はこれに従わざるを得ない状況に追い込まれることがままあります。
具体例
ある廃棄物処理業者(A社)が、太陽光パネルのリサイクル事業に新規参入するべく土地を購入し、大規模な破砕工場を建設する計画を立てた。
ところで、計画地が位置する自治体には「廃棄物処理施設設置指導要綱」という規程が存在し、そこには「申請書には計画地周辺住民の同意書を添付すること。」と規定されている。
A社はこの要綱に従って同意書を集めようとしたが、一部の住民から「破砕機の騒音で生活環境が悪化するおそれがある。」といった懸念の声が上がり、同意書は思うように集まらなかった。
そうこうしているうちに数年が経ち、同意書は集まり切らないが、とりあえず申請書を提出してみようということになった。
しかし、いざ窓口に行くと、「同意書を完備していない申請書は受け取れない。」と一蹴された。
A社はあきらめずに何度も申請書を持参しているものの、一向に受け取ってもらえないという状態が続いている。
こういったケースは実際によく見られます。
法律論から考えると…
意外かも知れませんが、廃棄物処理法は、地元住民の同意があることを施設設置の許可要件としていません。そのため、法律論からいえば、地元住民の同意書が100%揃わなくても、廃棄物処理施設の設置許可を取得することは可能です。
では、多くの自治体に見られる「廃棄物処理施設設置指導要綱」(※具体的な名称は自治体によって異なります。)とは一体何なのかということになりますが、これは一見すると法律のようで、その実体は行政が定めた行政の内部規則に過ぎず、したがって事業者に何かを強制できる法的な効力をもちません。
つまりこのケースは、「行政が、行政内部のルールでしかない要綱に従って行政指導を行い、法律の根拠なく事業者の要求を拒んでいる」ものといえます。「お願い」にしては行き過ぎです。
当然、A社とっては、到底納得できない行政指導でしょう。
納得できない行政指導への適切な対応方法
では、こういった行政指導にどう対応すべきでしょうか。
⑴「行政指導」か否かの確認
まずは、行政からの要求が行政指導かどうかを確認しましょう。確認の方法は簡単で、行政の担当者に「これは行政指導ですか?」と尋ねれば教えてもらえるはずです。
行政指導は法的な強制力を持たない「お願い」ですが、その要求が行政指導ではなかった場合、これに従わないことで法律上のペナルティを負ってしまうこともありますので、注意が必要です。
⑵「従えない」旨の明示
当該要求が行政指導であると分かったら、次に、「そのような行政指導には従えない。」という旨を明確に表示します。
その場合は、口頭で済ませるのではなく、文書によるやり取りを行いましょう。文書は形に残るので後に振り返ったときに客観的な証拠となりますし、文書でやり取りをすることで事業者の本気度が伝わります。
以上の対応により、納得できない行政指導を止めさせることができます。
結論:納得できない行政指導には従わないという対応が可能です
行政指導には法的な強制力がなく、従わなくても法律上の不利益を受けることはありません。
もっとも、行政指導に従うことで物事がスムーズに進む場合も多々あります。
というのも、行政の側も、むやみやたらと行政指導を行っている訳ではなく、そこには行政指導を行うだけの合理的な理由があるのが通常だからです。
上の例であれば、同意書の取得作業を通じて事業者と住民との間に対話を引き出し、相互理解を促進させ、良好な地元関係を醸成させるといった目的があるように思われます。
良好な地元関係は施設稼働後の事業活動にもプラスの影響を与えるため、同意書の取得を求める行政指導を全く無視することはむしろデメリットです(そのため、「いかなる理由があろうとも行政指導には一切従わない。」という極端な態度は取らない方がよいと考えます。)。
しかし、事業者が「これ以上は従えない。」と明示しているのにもかかわらず、行政指導が継続される場合には、これを止めさせるための対応が必要になります。
その際には、法律の専門家によるサポートを受けることをご検討いただければと思います。